MENU

イベント

亀田達也教授最終講義「実験社会科学としての社会心理学」

2024年3月15日、亀田達也教授の最終講義「実験社会科学としての社会心理学」を開催しました。

            

創設40周年の集い

2017年3月11日、「社会心理学研究室創設40周年の集い」のシンポジウムおよび懇親会を開催しました。

シンポジウム 1.開会の挨拶 亀田達也
2.研究室の現況について 村本由紀子
3.講演「社会に貢献する社会心理学:3つのアイデア」 丸岡吉人(電通デジタル代表取締役社長)
4.講演「社会とこころをつなぐ」 北村英哉(関西大学社会学部教授)
5.閉会の挨拶 唐沢かおり
            

新・社会心理学コロキウム

当研究室では、国内外で活躍する研究者を招聘し社会心理学コロキウムを開催しています。事前予約等は不要ですので、お誘いあわせの上、ぜひお越しください。

<2023年度の新・社会心理学コロキウム>

第18回 ダイナミクス制御の視点から考えるRULE DESIGN

日時:2023年5月19日(金)16:00 ~ 17:30
場所:オンライン開催(こちらより事前登録をお願い致します)

講師 江崎 貴裕 先生(東京大学 先端科学技術研究センター)
演題 ダイナミクス制御の視点から考えるRULE DESIGN
概要 集団や社会における人々の振る舞いを所望の状態に維持しようするのが、ルールの設定による行動の制約である。そうした介入はしばしば個人の想定外の反応を引き起こすが、それが集団の内外との相互作用に関係するものであれば、状況はより複雑になる。本講演では、世の中の制度や規則といったさまざまな仕組みのメカニズムを「ルール」という一つの切り口で統一的に理解しようとする試みである「ルールデザイン」のコンセプトを紹介し、その中で「ルール」を多体系の制御問題と捉えた場合に何が考えうるかについて議論したい。


<2019年度の新・社会心理学コロキウム(終了分)>

第17回 党派的な選択的接触の境界条件(新型コロナウィルスの状況に鑑み開催中止)

日時:2020年3月5日(木)16:00~17:30
場所:法文2号館 1番大教室

講師 小林 哲郎 先生(Department of Media and Communication, City University of Hong Kong [香港城市大学])
演題 党派的な選択的接触の境界条件
概要 党派的な選択的接触はアメリカを中心とする政治コミュニケーション研究では繰り返し報告されており、オンラインエコーチェンバーや政治的極性化の一因として考えられている。しかし、アメリカ以外の文脈では党派的な選択的接触は必ずしも強く見られていない。本報告は、国際比較とアイデンティティという2つの切り口から、党派的な選択的接触の境界条件を明らかにすることを目的とした一連の研究を紹介する。まず、擬似オンラインニュースサイトを用いてアメリカ、日本、香港で行われた国際比較研究では、アメリカでは選択的接触が強く見られるのに対して、香港では比較的弱く、日本では見られないことを示す。次に、香港における一連の研究から、香港人という単一アイデンティティを持つ人は選択的接触を示すのに対して、香港人と中国人のデュアルアイデンティティを持つ人の間では選択的接触は見られないことを示す。さらにこのアイデンティティによる差異は政治的なソーシャルメディア利用が態度と感情の極性化に及ぼす効果を調整しており、デュアルアイデンティティを持つ人はソーシャルメディアを政治コミュニケーションに利用するほど、政治的態度や感情が「非極性化」することを示す。これらの一連の研究を通して、アメリカにおける研究の強い影響を受けて「定見」となりつつある党派的な選択的接触の普遍性について議論したい。


<2018年度の新・社会心理学コロキウム(終了分)>

第16回 Why do humans reason?

日時:2019年10月8日(火)16:00~17:30
場所:法文2号館 教員談話室

講師 Dr. Hugo Mercier(Institut Jean Nicod, CNRS [フランス国立科学研究センター] )
演題 Why do humans reason?
概要 The interactionist theory of reasoning suggests that the main function of human reasoning is to exchange reasons in social contexts: to justify our actions, argue for our point of view, and evaluate the reasons offered by others. In support of this view, I review evidence showing that (1) human reasoning is biased in the expected manner (i.e. myside bias), (2) argumentative competence is universal and early developing, (3) there is an asymmetry in the way people evaluate their own and other people's arguments, and (4) the improvement of performance in group discussion stems from sound argumentative competence.
     

<2018年度の新・社会心理学コロキウム(終了分)>

第15回 Deciphering individuals' interactions involved in the coordination of three-dimensional nest construction in ant colonies

日時:2018年9月10日(月)16:00~17:30
場所:法文2号館 教員談話室

講師 Dr. Guy Theraulaz(Centre de Recherches sur la Cognition Animale, CNRS [フランス国立科学研究センター] )
演題 Deciphering individuals' interactions involved in the coordination of three-dimensional nest construction in ant colonies
概要 The amazing ability of social insects to solve everyday-life problems, also known as «swarm intelligence» has received a considerable attention the past twenty years. One of the most famous feats of insect societies is their ability to build impressive nest architectures. Not only their characteristic scale is typically much larger than the size of individual insects but some of these nests can also be highly complex. The evolution of construction techniques used by ants, wasps, bees and termites has provided a whole set of innovations in terms of architectural designs that proved to be efficient to solve problems as various as controlling nest temperature, ensuring gas exchanges with the outside environment or adapting nest architecture to growing colony size. How these efficient designs emerge from the combination of millions of local building actions performed by individual workers? And how do insects coordinate their building actions? To investigate these issues, we focused on the early stages of nest construction in the garden ant Lasius niger. This experimental paradigm was used to disentangle the coordinating mechanisms at work and characterize individual behaviors (transport and assemblage of construction material) and the stigmergic interactions involved in the coordination of building actions. We then developed a 3D model implementing the behavioral mechanisms detected on the individual level and showed that they correctly explain the construction dynamics and the spatial patterns observed at the collective level for various conditions. Our model shows that the evaporation rate of a building pheromone is a highly influential parameter on the phenotypic plasticity of nest architectures. The model also reveals that complex structures such as helicoidal ramps connecting nearby chambers emerge from a constant remodeling process of the nest architecture. Through this particular example we will illustrate the methods we routinely used to understand collective intelligence phenomena in animal and human groups.
     

第14回 進化はモラルを説明できるか?

日時:2018年5月25日(金)16:00~17:30
場所:法文2号館 教員談話室

講師 大槻 久 先生(総合研究大学院大学 先導科学研究科)
演題 進化はモラルを説明できるか?
概要 モラルとは、明文化されていないものの行為に善悪判断の基準を与える我々の考え方・態度であり、社会で共有されるとそれは社会規範となって実質的な拘束力となり得る。ヒトの心理や文化も適応の賜物であると考えると、我々が持つ社会規範も進化生物学の研究対象となりうるのではないか?私は間接互恵性の数理モデルを通して長年この問題に取り組んできた。この講演では自身の研究を中心に、(1)どのような社会規範が協力を実現するのか、(2)どのような社会規範が進化の結果として生じるのか、の二点についてこれまでに分かっていることを紹介したい。
     

<2017年度の新・社会心理学コロキウム>

第13回 社会神経科学による正直さの研究 / 道徳性にかんする経験的研究の哲学的意義

日時:2018年2月13日(火)13:30~17:00
場所:法文2号館 1番大教室

講師 阿部 修士先生(京都大学 こころの未来研究センター)
演題 社会神経科学による正直さの研究
概要 私たちの社会生活では嘘をつくことで利得を得られる場面が少なくないが、そうした状況における意思決定の神経基盤は未だ明らかではない。
本講演では、正直さを定量的に評価する課題を用いた社会神経科学による研究成果を紹介する。具体的には、1) 正直さの個人差を規定する報酬感受性の神経基盤についての研究、2) パーキンソン病を対象とした神経心理学的研究、3) 米国刑務所内のサイコパスにおける不正直さの特徴と神経基盤についての研究、を紹介する。
正直さと不正直さの研究における課題や限界点についても触れ、今後の研究の方向性についても考察したい。
講師 鈴木 貴之先生(東京大学大学院 総合文化研究科)
演題 道徳性にかんする経験的研究の哲学的意義
概要 近年、社会心理学、認知神経科学、行動経済学などの領域で、道徳性にかんする実験研究が数多く行われている。これらの研究は、これまで哲学者の専売特許だと考えられてきた道徳・倫理の問題に新たな光を投げかけ、ときには解決をもたらすとも言われる。他方で、経験科学の対象である事実の領域と道徳哲学・倫理学の対象である規範の領域のあいだには、超えることのできないギャップがあるという見方も根強い。
本発表では、道徳哲学・倫理学の基本的な問題図式を概観したうえで、近年の経験的研究は重要な意味を持つ論点を明らかにし、さらに、いくつかの論点について、哲学者はどのような教訓を得ることができるのかを考察したい。具体的には、道徳における感情の役割、個別事例にかんする直観とバイアス、道徳の文化的多様性などについて論じる予定である。
     

第12回 乳児における向社会行動:公平感、援助行動、および同情・共感

日時:2017年7月21日(金)15:00~16:30
場所:法文2号館 教員談話室

講師 板倉 昭二先生(京都大学大学院 文学研究科)
演題 乳児における向社会行動:公平感、援助行動、および同情・共感
概要 向社会行動の初期発達は、発達心理学において重要なトピックとなってきた。本講演では、こうした行動の発達について演者らのオリジナルの研究を報告する。
1)乳児における公平感:本研究では、15カ月児を対象に、先行刺激として、援助行動もしくは阻害行動を示すエージェント(幾何学図形)を呈示した後、それぞれのエージェントの資源の分配行動の予測(公平に分配するか、不公平に分配するか)に影響を与えるか否かを検討した。その結果、15カ月児は、援助行動を示したエージェントには公平な分配を期待することがわかった。
2)乳児における同情:10カ月児を対象に、2つのエージェント(幾何学図形)が、攻撃する―攻撃される場面を呈示し、その後、それぞれのエージェントの実物に対する乳児の選好をリーチングテストによって調べたところ、被攻撃者を選好することがわかった。この結果は、10カ月児は、単に攻撃―被攻撃の役割を理解しているだけでなく、弱者に対して原初的な同情的行動を示すことがわかった。
3)本研究では、前言語期の乳児が、あるエージェントが他者の援助を必要としているアニメーション場面から、どちらのエージェントが援助を必要としているかを認識できることがわかった。また、乳児は、2歳までに援助行動を行うようになるが、それは、微細運動の発達と関係するらしいことが示された。
     

第11回 裁判とADR判断のインパクト:要介護高齢者の事故の法的責任の社会的影響

日時:2017年6月1日(木)16:00~17:30
場所:法文2号館 教員談話室

講師 太田 勝造先生(東京大学大学院 法学政治学研究科)
演題 裁判とADR判断のインパクト:要介護高齢者の事故の法的責任の社会的影響
概要 痴呆による要介護老人(91歳)の引き起こした鉄道事故に対する,遺族の損害賠償責任について,最高裁判所第三小法廷が2016年(平成28年)3月1日に判決を出した.結論としては遺族の賠償責任を否定し,鉄道会社からの約720万円の損害賠償請求を棄却した.この事件は社会の注目を集め,広く報道された.報道においては,たとえば「最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)は1日,介護する家族に賠償責任があるかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする初めての判断を示した.そのうえで今回は、妻(93)と長男(65)は監督義務者にあたらず賠償責任はないと結論づけ,JR東海の敗訴が確定した.高齢化が進む中で介護や賠償のあり方に一定の影響を与えそうだ.・・・一方で,監督義務者に当たらなくても,日常生活での関わり方によっては,家族が・・・責任を負う場合もあると指摘.・・・」(朝日新聞2016年3月1日)のように,人々の介護行動などへの負の影響(「萎縮効果」)も指摘されている.
 本報告では,このような事件が人々の介護行動などに影響を与えるのか否か,与えるとしたらどのような影響をどの程度与えるのかについて,実験計画法によるフィールド実験の結果を紹介する.上記の事故紛争について言及しない「紛争事例摘示なしの対照条件」,上記最高裁の請求棄却判決と上記報道のような解説を示した上で質問する「元の請求棄却裁判例と解説条件」,弁護士会の設営する裁判外紛争解決センター(ADR:Alternative Dispute Resolution)での同様の結論として示した上で質問する「ADR責任否定事例と解説条件」,および上記の裁判例から改定して請求認容の裁判結果として示した上で質問する「請求認容裁判例条件」という要因操作と,インターネット調査の際のフィルタリングとしてほぼ同数の「介護経験有り」と「介護経験無し」を抽出して,それも要因として比較した.質問としては,同居の有無や自分で世話をするか他の人にしてもらうか,あるいは介護施設に入ってもらうかなど種々の介護形態について,自分の親が上記の痴呆状態だったとしたらという仮想状況での介護意欲を尋ねている.また,ベッドに縛り付ける等の極端な事故回避行動に対する非難可能性について尋ねている.さらに,上記の解説等によって事故の賠償責任に関して不安を感じるようになったかどうか,も尋ねている.最後に,政策的含意を求めて,保険制度の導入で不安の程度が改善されるかについても尋ねた.
 分析では伝統的な頻度論による帰無仮説有意性検定とベイズ推定(Bayesian Inference)の両方で検定を行った.無情報事前確率分布を採用したためか,両者の間に概ね一致は見られたが,ズレが生じた場合はベイズ推定の方を採用して解釈した.それによれば,「萎縮効果」は見られず,むしろ賠償責任否定による介護意欲の向上のほうが見られた.また,介護経験の有無による回答傾向の差も様々に見られた.
     

<2016年度の新・社会心理学コロキウム>

第10回 本郷-駒場合同セミナー

日時:2016年11月25日(金)13:00~17:45
場所:法文2号館 教員談話室

演題 本郷-駒場合同セミナー
概要およびプログラム 平成28年度の3回目となる今回のコロキウムでは、International Congress of Psychology 2016を通じて絆を深めた総合文化研究科・認知行動科学・長谷川研究室(駒場)と人文社会系研究科・社会心理学研究室(本郷)の2研究拠点が合同セミナーを開催しました。セミナーでは、それぞれの拠点で展開されている、今が「旬」のカッティングエッジの研究について、忌憚のない活発な議論が行われました。トークとポスターの2セッションを通じて両拠点間の研究交流を進め、分野の壁を超えた連携について洞察や示唆を得ることが目的です。プログラムは以下のとおりです。たくさんのご参加、ありがとうございました。

【プログラム】
13:00-13:05 長谷川壽一 Opening Remark

Talk Session(13:05-15:55)
13:05-13:45 明地洋典 自閉症と共感性、道徳性
13:45-14:25 白岩祐子 犯罪被害者のための正義:新しい刑事司法制度の効果測定

14:25-14:35 Break

14:35-14:55 Teresa Romero Empathic personalities in chimpanzees
14:55-15:15 齋藤美松 熟慮なき”向社会行動”は向社会的か~直感的な援助行為の限界~
15:15-15:35 井上裕香子 社会的価値志向性が報酬の分配者選択に与える影響
15:35-15:55 岩谷舟真 多元的無知の生起についての実験的検討

15:55-16:15 Break

Poster Session(16:15-17:45)
1 針原素子 他者依存の自己批判的ラベルとしての「甘え」:ダイアドデータを用いての検討
2 橋本剛明 道徳ジレンマ判断と自己制御の関連
3 明地洋典 自閉症者における心の知覚と道徳判断
4 和田幹彦 "共感性から「法」へ:法の進化と神経基盤の解明 From Empathy, Sympathy, Morality, Norm to Human Law"
5 黒田起吏 信頼は自己投影的な他者推論に支えられる:Social Value Orientationと裏切り回避の関係
6 井上裕香子 協働行為―相互扶助行動―は利他行動を促進するか?
7 森芳竜太 社会的侵害場面における第三者の制裁行動――すでに他者が制裁を加えていることが、制裁行動を調整するのか――
8 谷辺哲史 人工知能に対する「心」の知覚と責任判断の関連
9 浅田晃佑 自閉症スペクトラム児における パーソナルスペースについて
10 杉浦綾香 The neuroanatomical basis of general self-efficacy
11 櫻井良祐 既達成の目標によるセルフ・ライセンシング
12 中村敏健 マキャベリアニズムと行動の抑制能力の関連
13 齋藤真由 裁判員裁判に対する認知が参加意欲へ及ぼす影響
14 正木郁太郎 職場のダイバーシティの心理的影響:企業のダイバーシティ・マネジメントに関する展望と課題
      
      

第9回 開発経済学におけるフィールド実験の革命

日時:2016年6月24日(金)15:00~16:30
場所:法文2号館 教員談話室

講師 澤田 康幸先生(東京大学)
演題 開発経済学におけるフィールド実験の革命
概要 過去15年、発展途上国の経済問題を実証的・規範的に研究してきた開発経済学は、経済学の最底辺からトップフィールドに躍り出た。この「革命」の背後にある、無作為化比較試験を用いた開発政策評価、フィールドでのラボ実験の進展について概観し、フィリピンの田植えとブルキナファソの初等教育分権化プロジェクトのフィールド実験の事例を用いて、演者の研究を紹介する。
【参考文献】
・世の中を変えよう! フィールド実験入門 2015年6・7月号 https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/6826.html
・Jun Goto & Yasuyuki Sawada & Takeshi Aida & Keitaro Aoyagi, 2015. "Incentives and Social Preferences: Experimental Evidence from a Seemingly Inefficient Traditional Labor Contract," CIRJE F-Series CIRJE-F-961, CIRJE, Faculty of Economics, University of Tokyo. http://www.cirje.e.u-tokyo.ac.jp/research/dp/2015/2015cf961.pdf
・Yasuyuki Sawada, Takeshi Aida, Andrew S. Griffen, Eiji Kozuka, Haruko Noguchi, and Yasuyuki Todo, 2016, "Election, Implementation, and Social Capital in School-Based Management: Evidence from a Randomized Field Experiment on the COGES Project in Burkina Faso" JICA Research Institute Working Paper No.120 http://jica-ri.jica.go.jp/publication/assets/JICA-RI_WP_No.120.pdf
     

第8回 社会内分泌学

日時:2016年4月22日(金)15:00~16:30
場所:法文2号館 教員談話室

講師 菊水 健史先生(麻布大学)
演題 社会内分泌学
概要 動物はそれぞれの群れの中で、より適切な行動をとり、安定した社会生活を営む。多くの社会行動はホルモンの制御下にあり、性行動や攻撃行動、親子の関係性がホルモン依存的に成り立つ。例えば、幼若個体から性成熟を迎えるとき、成熟後のホルモンによるオス型行動の発現、メス型行動の発現、オスとメスが番ったのちの養育行動への推移、など生命活動の時期や役割の特異性を担っているのがホルモンのはたらきの一つである。そしてこのような生命活動の時期や役割によって、外界の刺激に対する情動反応性も大きく変容する。例えば、未経産のマウスでは仔マウスの発する鳴き声に情動的な応答をしないが、出産を経験することで、仔マウスの声に対して接近行動を示すようになる。このように、社会性の多くはホルモンが司っており、内分泌社会学「Social Neuroendocrinology」なる新しい領域も始まりつつある。本講では社会性を司るホルモンであるオキシトシンに着目し、その機能と進化、特に社会形成における役割について論ずる。
     

<2015年度の新・社会心理学コロキウム>

第7回 感情が認知的処理を促進・抑制するメカニズム

日時:2016年2月9日(火)15:00~16:30
場所:法文2号館 2番大教室

講師 榊 美知子先生(University of Reading, Senior Research Fellow)
演題 感情が認知的処理を促進・抑制するメカニズム
概要 人の認知的資源には限りがあり,日常で直面するすべての情報を知覚し,記憶できる訳ではない。しかし,限られた資源の中でも,感情を喚起する事象は優先的に処理されることが知られている。例えば,運転中に交通事故を目撃したとしよう。こうした状況では,運転中に目撃したその他の事象を忘れてしまっても,交通事故を目撃した記憶は忘れられないのではないだろうか。これらの事例から考えても,感情は認知的処理を促進すると言えよう。 しかし,感情は常に認知的処理を促進するとは限らない。実際,心理学の研究では,古くから,感情は認知的処理を促進する一方で,抑制することが知られてきた。その一方で,従来の研究では,「どのようなメカニズムが感情の促進効果と抑制効果の両方を可能にしているのか」に関しては,十分に明らかにされてこなかった。本発表では,感情が認知的処理に促進効果と抑制効果を与えるメカニズムに関して,行動実験,脳イメージング,計算機モデルといった複数の手法を使用した研究を紹介する。
     

第6回 無意識的な社会的同調:ミニマリストアプローチとインクルーシブアプローチ

日時:2015年12月4日(金)15:00~16:30
場所:法文2号館2階 教員談話室

講師 渡邊 克巳先生(早稲田大学基幹理工学部・教授)
演題 無意識的な社会的同調:ミニマリストアプローチとインクルーシブアプローチ
概要 同調現象や共感,社会性を研究するのが難しいのは,他の心的過程と同様にそのほとんどが無意識的に起きているからである。態度や高次機能による影響はあるものの、その過程を意図的に操作することは難しい。それにも関わらず、社会性を媒介する情報は、個体間で創発され、認知や行動、体験を変化させている。このような社会的シグナルは、どのようなものであれ個体の表層に表現され伝わらなければならない。本講演では、社会性を媒介する情報に対して実験心理学的なミニマリストアプローチを取っている研究と実社会での具体的な実証フィールドを想定したインクルーシブアプローチを取っている研究の両方から、いくつか例を紹介し議論のネタとしたい。
     

第5回 価値の生成に関わる2つの神経回路と社会的判断

日時:2015年10月16日(金)16:00~17:30
場所:法文2号館2階 教員談話室

講師 坂上 雅道先生(玉川大学脳科学研究所・教授)
演題 価値の生成に関わる2つの神経回路と社会的判断
概要 意思決定(判断)のプロセスの中でも、その核となるのは、価値(事象から予測される報酬/罰の総量)の生成である。近年の神経科学は、脳の中には価値の生成に関わるメカニズムが複数あることを明らかにしてきた。1つは、大脳基底核―中脳ドーパミン領域を中心とする、いわゆる「報酬系」回路であり、もう一つは、前頭前野の中の複数の領域のネットワークからなる熟慮的判断に関わる回路である。前者は、環境内の事象と報酬の確率的関係を学習していく機能を担い、自動的・潜在的に報酬(あるいは罰)の予測を行う(モデルフリーシステム)。後者は、環境の状態遷移情報を使った脳内モデル(ルールや概念など)に基づき、報酬/罰の長期的・顕在的予測を可能にする(モデルベースシステム)。これまで、社会的意思決定は、主にモデルベースシステムによる計算に依存すると考えられてきたが、近年、モデルフリーシステムが関与する社会的行動についても注目を集めている。
本講演では、モデルフリー、モデルベースプロセスに関わる、サルを使った電気生理学実験とヒトを被験者とするfMRI実験を紹介しながら、価値に関わる2つのシステムと社会的意思決定の関係について考えてみる。
     

第4回 儀式行動の心理・社会基盤

日時:2015年7月17日(金)14:00~15:30
場所:法文2号館2階 教員談話室

講師 Christopher Kavanagh先生(Ph.D. candidate, Institute of Cognitive & Evolutionary Anthropology, University of Oxford)
演題 Extreme rituals: The cognitive and social consequences of extreme ritual events:
概要 Ritual behaviour has long been a topic of interest amongst social scientists and anthropologists in particular. However, over the past decade there has been a flurry of new research by cognitive anthropologists and psychologists that has set out to examine more precisely the cognitive effects of observing and participating in collective ritual events using novel quantitative methods. In particular, new theories have emerged concerning extreme rituals and their ability to serve as a costly signal of commitment to a group and act as a ‘social glue’ generating intense relational bonds amongst participants. This talk summarises the major new cognitive theories of ritual and discusses the evidence for their role as social technologies for bonding and reinforcing group identity. New results from the large, international ‘Ritual, Community & Conflict’ project led by researchers at Oxford University are discussed along with recent evidence collected by the author from a variety of fire walking and cold water immersion ritual events held across Japan.
     

第3回 群れ生活の認知・生理的基盤:カラスの社会性、霊長類の社会性

日時:2015年5月8日(金)14:30~18:00
場所:法文2号館2階 教員談話室

講師 伊澤栄一先生(慶應義塾大学文学部・准教授)
演題 カラスの社会と認知と脳・身体
概要 従来大型類人猿だけがもつと考えられてきた道具作成・使用や心の理論で説明される高次認知機能が、大脳“皮質”をもたない鳥類カラスももつことが近年の動物行動・認知研究によって明らかにされてきた。このことは,高次認知機能が系統発生や脳・身体構造の違いを超え独立に(収斂)進化することを示唆する。本講演では,ハシブトガラスを対象に,若鳥が形成する群れの構造、ならびに、個体間コミュニケーションの機能と心理基盤について紹介する。その上で、改めて、カラスの脳と身体の構造に焦点を当て、霊長類とは根本的に異なる身体制御の可能性について話題提供する。これらをふまえ、認知機能の進化を探る上で社会生態と脳・身体構造という三者間の関係を統合的に理解する意義について議論したい。
講師 大西賢治先生(東大大学大学院 総合文化研究科、日本学術振興会)
演題 霊長類の社会性の基盤を探る
概要 ヒトを含め霊長類の多くの種は、集団を形成し、他個体と関わり合いながら生活している。集団で生きる動物は、必ず他個体との葛藤に直面するが、他個体と親和的な社会関係のネットワークを形成したり、他個体に攻撃的に振る舞ったりすることで、様々な葛藤を調整している。近年、霊長類の社会性の個体差の基盤を様々な階層から調べる研究が増えてきており、これまでに注目されていた養育・経験、社会的な要因に加えて、遺伝、内分泌系などの要因が影響していることがわかってきた。
本発表では、まず、先行研究から霊長類の社会性のどの側面にどのような基盤があることがわかっているのかを概観する。その後、発表者の研究から、オキシトシン受容体遺伝子や尿中のオキシトシン濃度が、親和的な社会ネットワークにおける個体の社会性にどのように関連しているのかを報告する。そして、これらの知見を総合し、ヒトに至る霊長類の社会性の進化について考察するとともに、社会性の基盤を複数の階層から総合的に探索することの有用性についても考察する。
     

<2014年度の新・社会心理学コロキウム>

第2回 文化・社会・遺伝の関わりを考える(2)

日時:2015年3月6日(金)13:00~18:00
場所:法文2号館2階 教員談話室

講師 辻本昌弘先生(東北大学文学研究科・准教授)
演題 アルゼンチン日系人の歴史と生活史
概要 アルゼンチン日系人の歴史と生活史について報告する。日本からアルゼンチンへの移住は20世紀初頭から本格化し戦後まで続いた。徒手空拳で海を渡った移民は、商業や農業などの自営業により社会上昇を図った。今回の発表では、日系社会の歴史や発表者が収集してきた生活史資料を紹介しながら、おもに以下の3点について論じる予定である。第一に、生業形態の確立や頼母子講による相互扶助などにみられる適応プロセスについて考察する。第二に、個々人の日常生活体験やインタビューでの人生の語り方といった細かい資料を、近代の時代性という大きな枠組みのもとに考察することを試みる。第三に、時代・国家・文化といった抽象的観念を具体的な生活場面にひきつけて調べる生活史研究の意義を考える。
講師 石井敬子先生(神戸大学人文学研究科・准教授)
演題 文化神経科学:最近の知見とそのインプリケーション
概要 この20年間に及ぶ文化心理学の研究は、自己や推論、感情経験等の高次の心理プロセスのみならず、知覚や注意といった低次の心理プロセスにも、当該の文化内で共有された人間観、世界観の影響が及ぶことを明らかにしてきた。しかも、文化心理学に神経科学の手法を取り入れた文化神経科学の研究が近年進みつつあり、このような文化の影響が脳・生理レベルでも報告されている。また、社会・文化環境と遺伝子の共進化、つまり、遺伝的な特性と文化的特性が相互作用し生態学的環境への適応が達成されているという考え方も取り入れられてきている。本発表では、近年の文化神経科学の知見をレビューし、これまで文化心理学があまり扱ってこなかった「文化の形成とその維持」という問題に対し、このアプローチがどの程度切り込むことができるのかについて議論したい。
講師 清水裕士先生(広島大学総合科学研究科・助教)
演題 道徳の起源についての理論的考察 動学的相互依存性理論と制度分析アプローチ
概要 本発表では、道徳規範がいかにして現代社会において成立しているのか、その問題について理論的に考察します。Haidt(2001;2012)は道徳基盤理論において、道徳判断が論理的というよりは直観的に行っており、またその判断の仕方が進化的な枠組みで獲得されていることを主張しています。しかし一方で,群淘汰などを安易に援用したその説明には、多くの批判があります(例えばBarash, 2007)。そこで本発表では、道徳規範が個人の心の問題だけではなく、社会制度と共に進化、あるいは発展してきた立場からその起源について説明を試みます。理論的な背景として、Kelley & Thibaut (1978)の相互依存性理論を動学的に発展させたモデルと、比較制度分析などの理論枠組みを援用します。
データはなく、ほとんどが机上の空論ですが、参加者のみなさまと道徳や規範について活発に議論できるネタが提供できればと思っています。厳しいご意見を期待しつつ、ご参加をお待ちしています。

  

第1回 文化・社会・遺伝の関わりを考える(1)

日時:2015年2月13日(金)15:00~18:00
場所:法文2号館2階 教員談話室

講師 山形伸二先生(九州大学基幹教育院・准教授)
演題 人間行動遺伝学の方法と社会的展開
概要 人間行動遺伝学は,双生児や養子などを対象としたデータを得ることで,通常は交絡している遺伝と環境の影響を分離して評価することができる。本発表においては,まず(1) 最も単純な手法であり,研究の蓄積の多い単変量遺伝分析(遺伝率の推定)(2) より発展的な手法であり,複数の特性(e.g.気質と問題行動)の間の相関関係(共分散)を遺伝由来,環境由来に分解する多変量遺伝分析,(3)特定の環境条件下において遺伝の影響の強さが異なることを明らかにする遺伝環境交互作用分析,のそれぞれについて,基礎となる考え方と方法について説明する。そのうえで,発表者の携わってきた研究を中心に,これらの手法を用いてこれまでに得られた代表的知見について紹介し(e.g.人間行動遺伝学の三法則),さらに人間行動遺伝学の方法を社会科学領域に適用することの必要性と有効性,および実際の研究例について紹介する。
講師 針原 素子(東京女子大学現代教養学部・講師(現在・本研究室助教))
演題 一般的他者への態度と社会的ネットワークの日韓米比較研究
概要 日本人の一般的信頼は、アメリカ人と比べて低く(e.g., 山岸, 1998)、韓国人と比べても低い(e.g., Sato, 2010)ことが指摘されている。本報告では、日本人は本当に他者一般に対して否定的なのか、それはなぜなのかについて検討するために、発表者がこれまで行ってきた研究について紹介する。日韓米において行った社会調査、フィールドワークの結果、日本人はアメリカ人、韓国人と比べて、一般的信頼が低く、見知らぬ他者と相互作用しない傾向が確認された。。また、アメリカ人、韓国人と比べて、日本人のネットワークサイズは小さく、境界密度(家族、友人集団、職場集団などの各領域間のつながり)が低いこと、そのようなネットワーク構造が日本人の一般的他者への否定的態度と関連していることが分かった。何が日本人の他者との積極的な関わりを妨げているのか、その心理的要因について検討したいくつかのデータと共に議論したい。

         


<既に終了したコロキウム>